「パルチザン伝説」の桐山襲への世代的共感と違和感2016年07月26日

『テロルの伝説桐山襲烈伝』(陣野俊史/河出書房新社)、『パルチザン伝説:桐山襲作品集』(桐山襲/作品社)
 先日(2016年7月17日)の日経新聞で『テロルの伝説桐山襲烈伝』(陣野俊史/河出書房新社)の書評を読むまで桐山襲(きりやまかさね)という作家の存在を知らなかった。1949年生まれで1992年に夭逝した作家で、三菱重工爆破事件や浅間山荘事件を題材にした作品を残したそうだ。天皇制打倒を目指すパルチザンを描いたため、右翼からの圧力で出版が中止されるという事件もあったそうだ。

 1949年生まれということは私より一歳下の同世代だ。息苦しそうな本だなあと思いつつ『テロルの伝説桐山襲烈伝』を読んでみたくなった。また、桐山襲のデビュー作『パルチザン伝説』(作品社)もネットの古本屋で入手した。

 『烈伝』を読む前に『パルチザン伝説』を読んだ。『文藝』1983年10月号に掲載された文藝賞候補作で、河出書房新社から単行本化される予定だったが右翼の圧力で出版中止となり、後日、作品社から刊行された本だ。この小説には連続企業爆破と連合赤軍がナマに扱われていて、そこに日本の終戦に関する「パルチザン」の話が絡んでいる。かなり無理がある未昇華小説だと感じた。

 この小説を読んでから大部の『テロルの伝説桐山襲烈伝』にとりかかった。この本は桐山襲が残したほんどすべての小説の内容を「解題」としてかなり詳しく紹介し、続いて小論を付すという体裁を基本に、年代記的に桐山襲の活動を描いている。これを読めば、桐山襲の作品を読んでいなくても全集(存在しない)を読んだ気分になる。同時に、筆者・陣野俊史氏の熱気が伝わってくる。

 本書によれば、桐山襲(ペンネーム)は早稲田の社青同解放派(反帝学評)の活動家で、卒業後は東京都教育庁に就職、1992年に逝去するまで公務員として勤務しながら作家活動を続けていたそうだ。社会人になってからも反資本主義・反帝国主義的な思想を持続しながら作家としての表現活動を展開した人だ。

 わが同世代にこういうタイプの人がいるだろうとは予感していたが、私はこの作家の存在を知らなかった。桐山襲が作家として活躍した1983年から1992年、30代後半から40代前半の時代、私は小説をまったく読まなかったわけではないが、この作家は視野に入らなかった。それぞれが社会人として多忙を極めていた頃なのだ。後にバブルと呼ばれるこの時代に、桐山襲は全共闘、新宿騒乱罪、連合赤軍、東アジア反日武装戦線、南島としての沖縄、南方熊楠、永山則夫などへの関心をベースに、それらを風俗ではなく思想の素材として小説を紡いでいた。

 いま、あの頃をふりかえり、情況の射程を21世紀の現代にまで広げると、往時茫茫の感慨を超えて、封印していたものがあふれ出てくるような苦しさが湧き出てくる。『テロルの伝説桐山襲烈伝』を読んで、世代的共感と違和感が同時に噴出し、濃厚と淡泊が錯綜する。