神戸文学館の小松左京展を見た2011年09月12日

 所用で関西に行ったので、足を伸ばして小松左京展を見てきた。
 小松左京展は、JR灘駅から徒歩10分弱の神戸文学館で開催されている。開催期間は2011年7月22日から9月25日まで。小松左京展開催中の7月26日に小松左京氏は亡くなった。

 東京からは遠いので、小松左京展に行くことは考えていなかった。たまたま関西に行くことになり、チラシを確認するとまだ開催中なので、見に行くことにしたのだ。

 私は関西での居住経験はなく、JR灘駅で下車したのも初めてだった。知らない町をのんびりと歩くのは、何となくワクワクして気分が高まる。

 日曜日の午前中のせいか人通りはまばらだ。駅前の坂道を上がって行き、小さな動物園を左折してしばらく行くと、神戸文学館にたどりついた。赤煉瓦に三角屋根の瀟洒な建物だ。いかにも神戸風である。ひっそりとたたずんでいて看板も目立たない。教会を思わせる大きな木製のドアを自ら開けて館内に入る。だれもいない。受付もない。館内はさほど広くはない。

 小松左京展は入場無料だ。展示ゾーンの一角が小松左京展になっていた。さほど大規模な展示ではない。生原稿、ノート、古い掲載誌などとともに、パネル写真が何枚も展示されていた。

 やがて、私以外にも何人かの入場者がやって来たが、館内は静かだ。ふと、西東三鬼の『神戸』を思い出した。第二次大戦下の神戸のホテルの浮世離れした不思議な世界を連想したのだ。神戸文学館の常設展示ゾーンには神戸に多少でもゆかりのある文学者を紹介していたが、西東三鬼はなかったような気がする。私の見落としかもしれないが・・・

 この不思議な雰囲気の空間で開催されている小松左京展で私が最も面白く思ったのは、昔のSF作家クラブの記念写真だ。温泉旅行の写真で、旅館の「歓迎 日本SFサッカークラブ様」という大きな看板を真ん中に若い作家たちが写っている。

 「日本SF作家クラブ」を「日本SFサッカークラブ」と勘違いされたという有名なエピソードは、何度か読んだことがある。だが、現物の写真を見たのは初めてで、その看板の大きさと迫力に圧倒され、笑いがこみあげてきた。
 それにしても、この写真に写っている日本SF作家第1世代の人々(小松左京、星新一、筒井康隆、光瀬龍、眉村卓、豊田有恒・・・)は、みんな本当に若い。サッカー選手には見えないが、日本SFの青年期を彷彿させる。こんな写真を、静かな浮世離れした空間で眺めていると、タイムスリップ感覚におそわれる。

 神戸文学館を出て、だらだらとした坂道をJR灘駅に向かって下っていくとき、筒井康隆氏の短編「平行世界」が頭に浮かんだ。阪神地域と思われる坂道の町が同じ地形が無限に連続する異世界に変貌する印象深い小説だ。
 小松左京氏の小説ではなく筒井康隆氏の小説が頭に浮かんだのは故人に申し訳ない気もするが、小松左京展に触発されて頭がSFモードになっていたのだ。おそらく、本日は小松左京氏の四十九日だと思う。あらためて合掌。