今回の大震災は本当に「想定外」だったのか?2011年03月20日

『地震と噴火の日本史』(伊藤和明/岩波新書/2002.8)
 『安政江戸地震』を読んだ余波で、『地震と噴火の日本史』(伊藤和明/岩波新書/2002.8)を購入して読んだ。近所の本屋では本書と『原発事故はなぜくりかえすのか』(高木仁三郎/岩波新書/2000.12.20)を並べて陳列していた。2点とも10年ほど前の岩波新書だ。買い取り制の岩波の本なので在庫があったのだろう。

 それにしても、この2点が並んだ光景は悪夢だ。高木仁三郎さんの本は逝去の直後に出た「遺書」のような著作で、その時に入手した。あの頃、高木仁三郎さんの本と地震の本が書店の店頭に並ぶ光景は想像しなかった。私の想像力はその程度だったのだ。

◎「想定外」のような気もするが

 『地震と噴火の日本史』は史料等によって、6世紀から19世紀末までに日本で発生した地震や噴火を概説している。本書を読むと、つくづく日本は地震の多い国だと思う。それも、かなり大きな地震にたびたび襲われている。

 今回の東日本大震災は「想定外」の規模だと言われている。M9という数字や、ギネスに載った世界一の防波堤(釜石)でも津波災害を防げなかった事実を見ると、「想定外」ということを納得したくなる。しかし、本書を読んでいると、本当に「想定外」だったのだろうかとも思えてくる。

◎広範囲の震源は「想定外」か

 今回の地震は震源がプレート境界上の数百キロにわたっている。震源がこのように広範囲なのは「想定外」だったのだろうか。本書によれば、1707年の宝永地震(M8.4)は南海地震、東南海地震、東海地震が同時に発生したと考えられている。震源は広範囲だったのだ。地震と大津波による被害も東海地方から四国までに及んでいる。プレートの境界で震源が広範囲に及ぶ巨大地震が発生するのは「想定内」と言えるのではなかろうか。

◎大津波は「想定外」か

 今回の津波の高さはまだ検証されていない。テレビで学者が「10メートル以上の津波が来て、リアス式海岸ではそれが数倍に増幅されたようだ」と語っていた。1960年のチリ地震津波が6メートルだったと聞いていたから、やはり、今回の津波は「想定外」だったのだろうと思った。しかし、本書によれば1896年の明治三陸地震津波(M8.5)の被害もすさまじい。波高は、綾里村(現在の大船渡市三陸町綾里)で38.2メートルだったそうだ。とすれば、少なくともこの地方では38メートルは「想定内」と言わねばならない。

◎想定する最大級の津波とは

 東京電力のホームページには、原発の津波対策について「敷地内で過去に発生した津波の記録を十分に調査するとともに、過去最大の津波を上回る、地質学的に想定される最大級の津波を数値シミュレーションにより評価し、重要施設の安全性を確認しています」とある。
 つまり、過去の記録を上回る津波も「想定内」ということだ。その「想定」がいかほどのものであったのか、いずれ明らかにしてほしいものだ。

◎私たちは忘却と失念を繰り返す

 私は地震についてはまったくの素人で、たまたま一冊の新書本を読んで、「想定外」ということに疑問を抱いたに過ぎない。遠くない日に、専門家からさまざまな評価や見解が出るだろう。どの程度が「想定」のラインだったも明らかにされるだろう。それを待ちたい。

 本書を読んでいると、私たちは頻繁に地震に見舞われてきたにもかかわらず、世代を経るうちに震災への真の恐れを失う、ということを繰り返してきたように思える。
 私も60年以上生きていると、自分自身の昔の記憶が曖昧なまだら模様になってきている。社会が災害の記憶を危機意識とともに保持できる時間はそう長くはないのかもしれない。本書の帯に「歴史に学ぶ、大災害への備え」とあるが、歴史に学ぶのは、やさしいことではない。

コメント

_ 神登山 ― 2011年03月20日 12時37分

本日(3月20日)のテレ朝の「サンデーフロントライン」で、福島原発は過去の大津波を1960年チリ地震津波の4.2メートルとし、最大6メートルの津波を想定していたと報道していた。確かなことはわからないが、そうだとしたら、あきれた「健忘症」だ。チリ地震津波は最大6メートルの津波にすぎない。1896年の明治三陸津波は平均数メートルから20メートルだった。1703年の元禄地震では房総半島沿岸が5~10メートルの津波に襲われている。

_ 齋籐庄一 ― 2011年03月30日 15時39分

奥州藤原氏が平泉より仙台平野に進出しなかったのは貞観の大津波を意識していたのではないでしょうか?
 日本における海辺の都市のあり方を再構築しないと大災害で日本沈没が現実になるような気がします。

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