映画『アリス・イン・ワンダーランド』、映像は素晴らしいが……2010年04月29日

 映画『アリス・イン・ワンダーランド』を3Dで観た。2Dでも上映していたが、多少料金が高くても3Dの方がいいだろうと思った。話題の『アバター』も3Dで観たので、2回目だ。
 3Dを2本観て、「もうこれでいいや.次は2Dで十分」と思った。確かに立体映像には迫力がある。前後に飛翔するシーンなどは現実以上に立体感が強調されてハッとする。しかし、すべての映画を3Dで観たいなどとは思わない。私は近視なので、眼鏡の上からゴーグルをつけるのがわずらわしいということもあるが、3Dは飽きがくる。3Dは、映画の本質とはあまり関係ないようだ。

 と言っても、もちろん「映像美」は映画の本質と大いに関係がある。『アリス・イン・ワンダーランド』は、3Dで観なくても十分に素晴らしい映像である。あの、アリスの奇妙で不思議な世界の光景を、アニメではなく実写(?)で観ることができるのは得がたい体験だ。

 ポスターやチラシを見た時から『アリス・イン・ワンダーランド』には期待していた。原作の後日談で、成長したアリスが登場するという設定も面白そうだし、帽子屋が中心人物らしい点にも好感が持てた。単なるお子様向けではない不思議な世界の物語だろうと楽しみにしていた。

 しかし、期待通りではなかった。映像は十分に期待通りだったが、ストーリーは期待はずれだった。
 映画を観た後、念のために昔読んだ『不思議の国のアリス』を再読してみた。そもそも、キャロルの原作はダジャレや造語の多い、翻訳困難な作品だが、それが広く読まれているのは、あの気違いじみたナンセンスな世界の魅力のせいである。

 この映画の世界は、気違いじみたナンセンスでシュールな世界ではなく、普通の冒険ファンタジーの世界である。アリスのキャラクターもイメージからズレている。19歳に成長したとしても、昔の生意気でトンチンカンで強引に物語を引っ張って行く雰囲気を引き継いでほしかった。これは、『不思議の国のアリス』の後日談ではなく、別の冒険譚になっている。
 バンダースナッチなどという幻獣(『鏡の国のアリス』に名前が出てくる)を映像化しているのだから、アリスの世界にアプローチしようというこだわりがなかったわけではなさそうだが、やはりあの世界の映像化は困難だったのだろうか。

 原作を再読していて、アリスとチェシャー猫の次の会話が、この世界を端的に示しているように思えた。この部分、手元にあった原文で引用してみる。

  `In that direction,' the Cat said, waving its right paw round, `lives a  Hatter: and in that direction,' waving the other paw, `lives a March Hare.  Visit either you like: they're both mad.'
   `But I don't want to go among mad people,' Alice remarked.
   `Oh, you can't help that,' said the Cat: `we're all mad here. I'm mad. You're mad.'
   `How do you know I'm mad?' said Alice.
   `You must be,' said the Cat, `or you wouldn't have come here.'

 「ここでは、みんな気違い。ぼくも気違い。あなたも気違い。」そんな世界を映画で表現するのは、いくら3Dを駆使しても無理なのだろう。

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