直島の地中美術館の面白さ2010年03月12日

地中美術館のパンフレットより
 先日、直島の地中美術館に行った。安藤忠雄が設計した、島の地下に造られた美術館だ。
 私は直島の対岸の岡山県玉野市出身なので、子供の時から直島は知っていた。三菱金属(現・三菱マテリアル)の製錬所がある禿山の島だった。当時、親に連れられて宇高連絡船で高松に行くことも多く、連絡船から直島はよく見えた。
 私は高校1年の1学期まで岡山県立玉野高校に通っていて、その後、親の転勤で東京に転居した。高校には直島から船で通学して来る生徒も多く、霧の多い日は船が遅延して彼らは遅刻して来た。直島は香川県の島だが、地理的には岡山県に近いので岡山県の高校に通学していたのだ。

 そんなことで直島は身近な島だったが、行ったことはなかった。あえて行くような島ではなかったのだ。近年、雑誌などで「現代アートの島・直島」という記事を目にするようになり、安藤忠雄設計の地中美術館なるものが出来ていることを知った。「へえー、あの直島がねえ」と、少し驚いた。

 二十数年ぶりに岡山へ行く機会があり、生まれ故郷の玉野市まで足を伸ばし、渋川海水浴場のホテルに2泊した。ホテル近くのお好み焼き屋で昼食をとり、お好み焼きを焼いているおばさんに生まれ故郷周辺の現在の様子をいろいろ尋ねてみた。ついでに「直島はどうですか?」と聞くと、おばさんの口調が変わり「直島はブームじゃけん。直島のことは東京の人の方がよう知っとるけんねえ。」と言い「直島はブームじゃけん」を繰り返した。

 玉野市まで来た機会に直島まで足を伸ばしてみようと考え、ホテルのフロントで直島までの日帰り観光について相談した。「直島に行く人は、ほとんどみんな地中海(ママ)美術館が目当てです。地中海(ママ)美術館へは直島の港からバスです」と言って、フェリーやバスの時刻表付きのパンフレットで詳しく説明してくれた。

 翌日、直島に行き、地中美術館を見てきた。地中にある変わった美術館であるという以上の予備知識なしで行ったので、展示のユニークさには驚いた。美術品を鑑賞するというより、アート空間を体験する美術館だった。そして、この美術館を直島に作ったわけも何となく分かった気がした。
 地中美術館を訪れる人は、ここにたどり着くまでに、すでに非日常の世界に踏み込む体験を強いられるようになっていて、その精神状態がアート空間の体験に効果的なのだ。昔、富山県の利賀村へ鈴木忠志の芝居を観に行った時に感じた感覚を思い出した。

 直島は離島ではない。玉野市の宇野港からフェリーで20分の近さで、元来が製錬所の島だから、そんなに不便な場所ではない(製錬所を島に作るのは、煤煙の人家への影響を少なくするという意味はあったらしいが)。しかし、東京から行くとなると、やはり大変である。岡山までは新幹線で簡単に行けるが、その先が大変だ。
 宇野港のある宇野駅は、かつては宇高連絡船の乗り継ぎ駅で乗降客が多かったが、瀬戸大橋ができてからはローカル駅になった。岡山と宇野を結ぶJRの宇野線はいまもあるが、ほとんどの列車は途中の茶屋町から瀬戸大橋へ分岐するので、岡山から宇野まで来る列車は少ない。宇野港でフェリーに乗れば20分で直島だが、そこからバスに乗らなければならない。バスの終点に地中美術館のチケット売場の建物がある。ここでチケットを購入しても、美術館の入り口までは山道の道路をしばらく登らねばならない。これらはすべて「仕掛け」のような気がする。

 はるばるとたどり着くと、それだけで精神は高揚する。島の地下室というのは、少年時代に夢想した秘密基地を連想させる。製錬所の島なのだから、景観に遠慮して建物を地中に埋めたわけではないように思える。
 そう言えば、ホテルで説明してくれたホテルマンが「地中美術館」ではなく「地中海美術館」と繰り返すのが気になった。宇野港のフェリー乗り場でも「地中海美術館」と繰り返している係員がいた。単なる言い間違えではなさそうだ。地元では「地中海美術館」だと思い込んでいる人が少なくないのかもしれない。そう考えたとき、瀬戸内沿岸で育った小学生の頃「瀬戸内海は日本の地中海」と教わったことが記憶の底からよみがえってきた。

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