一般参加者と呼ばれて(私の妻のピースボート体験記)2009年01月24日

 ピースボート企画の「地球一周クルーズ、お一人さま百四十八万円から」と銘打ったポスターを見て、資料を取り寄せ、説明会に出席し、会社を退職した夫と、ツアー代金を含めて一千万円弱の代金を旅行会社ジャパングレイスに期日までに支払って、クリッパー・パシフィック号に乗船した。
 この船は、前回のクルーズで修理のため十日ばかり帰航が遅れ、そのため出発のスケジュールが二度にわたって延期された。クルーズが中止になるのではと心配して問い合わせたところ、ジャパングレイスは「キャンセルは出ていません。全く問題ありません」と断言した。
 出航当日、華やかなセレモニーで、百二名の被爆者が「おりづるプロジェクト」として招待されていると知った。事前の通知がなかったので驚いた。ずいぶん派手な事をする団体だと思ったが、団塊の世代なので、ノーモアヒロシマ大賛成、大いに結構とも思った。
 それが、船のエンジントラブルで寄港地での遅延が重なるに連れ、企画集客宣伝を担うピースボートと、旅行業を営むジャパングレイスに対する見解が一八〇度変わってきた。まず出航しない理由について明確な説明がない。誠実な対応がない。責任感がない。謝罪がない。寄港地で一日のばしにズルズルと遅延して、そのあげくピースボートが「船会社に抗議しましょう」と乗客の署名運動を展開するにいたって私の怒りは沸点に達した。
 ピースボートはNGOなので、営利活動をする会社としてジャパングレイスを立ち上げている。二者は表裏一体の関係にあり、スタッフ、職員の移動もあるし、関係者一同が役員を占める一身同体の組織なのだ。私たち乗客は、ピースボートの「平和活動や地雷撤去や貧困をなくそう」の宣伝に釣られて、ジャパングレイスにクルーズ代金を前払いで全額支払って乗船しているのであって、船会社に金を払っているわけではない。ピースボートが船の遅延を抗議する相手はジャパングレイスであって、船会社に抗議する署名運動は、巧妙な問題のすり替えだ。筋が違う。責任転嫁もはなはだしい。
 私は実写映画・アニメの企画製作、海外アニメの配給の映画会社を経営していたので、契約書の大切さも責任の取り方も、肝に銘じている。仕事をしていれば不測の事態など日常茶飯事だ。判断にミスや誤りがあれば軌道修正、ポカをやったらごめんなさい、と同時に、責任の取り方を考えてすばやく処理する。そうでなければ仕事なんかできない。
 結局、度重なる抗議を受けて、代替え船モナリザ号に移っての地球一周となった。暇人ばかりが乗船しているわけもなく、仕事や学業や病気の都合で、百名近い途中下船者を出して、地球一周の船旅百三日が百二十九日もかかってしまった。
 この不愉快な騒動と長いたるんだ航海は、しかし、ピースボートという組織の実体をくまなく見せてくれた。
 まず、平和・非核・憲法九条などを旗印に、寄港地での観光ツアーを目玉に、乗客とボランティアスタッフを募る。毎日発行される船内新聞には各種企画が目白押し。中でも水先案内人と称する他薦自薦の講師がノーギャラで参加する企画がピースボートの売りだ。この新聞には「参加者紹介コーナー」なるものがあり、私たち乗客はすべて「参加者」と呼ばれる。お友達感覚も仲良しクラブも時にはいいが、私たちは金を払った乗客だ。それなのに、騒音、異臭、設備の不備、トイレや排水の詰まり、シャワーがでない、テレビの故障……ありとあらゆる苦情に対して、誠実です早い対応がなされない。船のレセプションはホテルのフロントで、サービス業なのだ。ジャパングレイスの社員は、一体どういう社員教育を受けているのか、通常の企業では考えられないお粗末な対応だ。乗客の立場など考えない、規則をたてにとった無神経な対応……あきれるばかりだ。
 どういうわけか、乗客の中には「我々は参加者なのだ。乗客面して文句を言う奴が居る」と憤慨する者もいる。では一体ここはどういう世界なのだと自問する。
 船旅の醍醐味は食事とイベント、そして快適な毎日。ところが、今回のクルーズは前回のクルーズの悪評がたたってキャンセルが相次ぎ、しかも急遽被爆者百二名を無料招待したため、食事の質もイベントも、あらゆるサービスの質が低下した。そのうえ朝から晩まで自主企画という、幼稚園のお遊戯教室のようなものから、百歩譲って部活やクラブ活動のようなものまで、やれ文化祭だ、運動会だ、ハロウィン、クリスマス、収穫祭だとウルサイコト、ウルサイコト……。たまにはプロの芸を堪能してゆっくり船旅を楽しみたい。
 タダで乗るならピースボートにかぎる。この特殊な世界では、どんなに拙い芸でも拍手を浴びる事ができるので、いい気分になれる。出たがり屋、目立ちたがり屋にはこたえられない自主企画のオンパレード。自分探しの若者は、いともたやすくボランティアスタッフとして自己確認できる。若い女性がたくさん居て、老人にも絶えず挨拶してくれる。フリーハグと称して、抱きついてくれる企画まである。老いた男性にとってこんなにあり難い世界はない。陰で「動く老人ホーム」と呼ばれる所以である。過去に強制下船になった例があるという一人部屋での女性売春、老いも若きも恋人探しに夢中になり、不倫もあれば恋の鞘当もある。
 こんなどろどろとしたモラルもサービスもない船には、たとえタダでも二度と乗る気はないが……。
 ジャパングレイスに提出する要望書に名を連ねた。要望内容は「一、途中下船者(地球一周船旅の未遂行部分)に対する補償」、「二、旅行遅延に伴う精神的苦痛への対応」の検討。その結果「途中下船者には寄港地一箇所につき一万円」「一人三〇〇ドルの補償金」「二年以内、ご本人限定地球一周クルーズ限定使用の十二万円のクーポン」が出る事になった。だが受け取りには、今後一切文句を言いませんと言う但し書きがあるので、夫も私も辞退した。

コメント

_ 62回の乗客 ― 2009年02月10日 11時58分

私たちもピースボートのインチキ性を知って帰国後世間にひろめる努力をしております。
訴訟準備の方も大勢います。
63回の方の動向も知りたいものです。

_ 62回乗客 ― 2009年06月04日 22時12分

私のブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/ymdnkakasi/MYBLOG/yblog.html
に引用させていただきました。

_ 枯れ尾花 ― 2012年07月08日 10時14分

洗脳とか左翼教育をされるのではなかろうか? と懸念する人がいます

その心配は全くありません お題目は並べていても、内容はおざなり、感化される人など誰一人いません   まあ笛吹けど踊らずの乗客です

ただ自主講座で、カルトを宣伝する人がいて、5~6人の信者を獲得していました

_ 参加者にもいろいろ ― 2012年07月14日 04時44分

1 お金をもらい子連れで乗っている参加者

2 ボランティアと称し、1の下請け的日雇い仕事で働き、無料若しくはそれに
  近い大幅割引料金で乗っている現実逃避、モラトリアム的参加者

3 人生を真面目に過ごし、勤勉に働き乗船料金を支払っている参加者

_ ピーセン官僚 ― 2014年07月07日 03時56分

カテゴリーで言えば、ただでしかもお小遣いまでもらって乗っている若者だが、

これがピースボートセンターにバンキョし、船内行事をとりしきっている

絶大な権力を持ち、高額な料金を払って乗った高年者に上からの目線で接し、
『私たちはお客さんなんですヨ!!』 とたまりかねた婦人が抗議したと言う

卓球台を一台置ける小部屋が二室あり、超人気なのだがこの卓球台の使用を、ピーセン官僚に御気にいられなければ使わせてもらえない、と言う不満を聞いた

_ スケッチ教室の実態 ― 2014年07月08日 19時17分

カルチャースクールの一環としてスケッチ教室が開講された

大変な人気で開講時は、130人もの受講者がつめかけた

ところが講師の先生は、自分の作品を販売することに熱心で
肝心の教える方は、自分のテクニックを全部教えない

絵を完成させる過程のうち、色を塗る最終場面で秘密の過程があり
まるで手品のように仕上げ、受講者が聞いても教えない

大勢居た受講者は、しまいには30人位に激減してしまった

_ 船内新聞 ― 2014年07月09日 04時01分

少年犯罪の責任は少年か社会か

(p)ピースボート事務局
 死刑囚永山則夫から考える
 少年犯罪の原因。話し合います

コメント
 電信柱が高いのも、
 郵便ポストが赤いのも
 みんな社会がわるいのヨ

_ 経験者 ― 2014年07月15日 14時03分

わか者とバカ者の違い 一字だけ 

この手の特に男が多い

リドエリアと言う食事もできる広いオープンスペースがあるが、
ここが帰国近くになって、モラトリアムギレが迫ってきたニート達の
ストレス発散の場所になる

ドラム、エレキギターなどで速成バンドを組み。大音量で流す
一帯は騒音に耐え切れず、みんな逃げ出し無人となる  傍若無人とはまさにこれ!

ドラム等の楽器はピーセン事務当局のお許しの上使用している
外国人船員も呆れ顔で、こんな馬鹿者が日本人だなんて恥ずかしい

_ 知らしむべからず ― 2014年07月19日 16時39分

船内ではニュースに接する機会はない

寄港地でまれにはいる1週間~10日遅れの新聞を読むぐらい

ピーセン事務局横の掲示板に日本のニュースとして、印刷物が張り出されている
ニュースソースはたぶんインターネットからだと推察する

だとすれば毎日更新するのはたやすいはず
それが1週間も2週間も同じ記事を出しっ放しにしている

水先案内人と称するジャーナリストが「最近の日本の政治情勢」について
なにか喋ってもまったく聞く気がしない

「知らしむべからず、よらしむべし」 か ハ・ハ・ハ

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